本文へスキップ

園芸療法の効果.

『社会性』




入院したり、高齢者施設に入所するようになると、
外出の機会が減り、交際範囲も極端に狭くなるため孤独感が深まって、
ますます心身の状態が衰退する恐れがあります。
それらの施設で園芸に参加することで、社会性の維持を保つことができます。

 また、知的障がい者、発達障がい者が社会に出るために必要な知識、
配慮なども園芸を通じて学ぶことができます。
健常な幼児や学生にとっても、園芸を通じて身につけられることがあります。



〇コミュニケーション能力の維持、向上
 活動を通じての入所者どうしの会話により、施設内に親しい人を作ることができる。
 植物や栽培を通して話題を提供し、会話の機会を作ることができる。
〇施設外の人たちの交流の維持
 育てた鉢や植物を使ったクラフトをプレゼントすることで、家族や友人との絆を維持することができる。
 障がい者施設で育てた植物を販売したり、贈ることで施設外の人と交流する機会を得ることができる。
〇自分の鉢や畑を管理する活動によって、独立心、責任感を維持し、養うことができる
〇共同の園芸活動では、協調性、思いやり、譲りあいの精神を養うことができる


園芸の場で会話が弾みます。  



以下は、高齢者施設で園芸療法を指導しているリーダーからの報告です。



実例@


●部屋に持ち帰った鉢の管理を続ける



沢渡さん(杉並区の有料老人ホーム)は、年齢並みの物忘れがありますが、
比較的クリアな方で毎週の園芸を楽しみにしています。

昨年6月に苔玉を作ったときは、大事に部屋に持って帰られました。

この施設では毎回20名近くの方が園芸に参加されますが、
7割以上の方は認知症がかなり進んでいて、自室できちんと栽培管理をすることができません。
水遣りがきちんとできないとわかっている方の鉢は、お部屋に持っていかず談話室に預かり、
スタッフが水遣りをすることになります。

「自分で育てたい」と言って持ち帰る方もいますが、
認知症がある方の大半はうまく育てられずに1ヶ月もすると枯死してしまうので、
スタッフが回収するのが常でした。

苔玉を作ったときも、1〜2ヶ月の間お部屋に緑があれば良いのではないかというのが
私たちの正直な気持ちでした。

観葉植物を包んで作った動物の顔の苔玉。  



3ヶ月ほど経って、沢渡りさんから「苔玉の植物がまだ元気です」と報告がありました。
また数ヶ月して「まだ元気です」と教えてくれました。
「大事に育てて下さいね」と答えたのですが、
さらに数ヶ月経った今年3月に「これはどうしたらいいの」と、その苔玉を持って園芸に参加されました。
見てみると、苔玉に植えた観葉植物が30cm程の長さに、とぐろを巻くように育っていました。
作ったときに説明を受けたように、水苔が乾かないように毎日注意をして水を与えていたそうです。

その日はとりあえず支柱を立ててあげましたが、
「大きく育ちすぎたので鉢に植え替えたい」と言うので、
次の週に鉢と土を差し上げて一緒に植え替えをしました。
その後もとても大事に育ててくれて、鉢一杯に観葉植物が育っています。

沢渡さんが「私の苔玉が元気よ」と話しているのを聞いた上林さんと坂本さんが、
「私の部屋のも元気に育ってるよ」と教えてくれました。

肥料が切れる時期なので、お部屋を回って手入れをさせてもらいましたが、
植物の生長をじっと見守って、枯らさないように手入れを続けてくれている方々が
少なからずいることを知りました。 
その後も、3人の間では自室の植物の生育の状態、手入れの内容などが時々話題になるようで、
それをきっかけに、あまり話をしたことがない方々の会話のきっかけになっているようです。


(報告者:高木リーダー)

実例A


●気持ちに余裕ができ、グループに溶け込むようになる


関元さん(世田谷区の有料老人ホーム)は、
私がボランティアを始めた当初はお誘いしても活動には参加しようとされず、
見学をしているだけで、表情の硬い方でした。

スタッフとのミーティングで話し合ったところ、
活動の様子を関心を持って見ているようなので参加したい気持ちはあるのだろうから
声掛けは続けよう、ということになりました。

その後、お見かけする度にリーダーさんが参加への声かけを行っていました。

3か月ごとに押し花を使った
カレンダーを作っています。
 



押花を使ったカレンダー作りの際、初めてその気持ちになったのか参加して作品を完成させました。
その作品のできあがりにはたいへん満足されたご様子でした。

軽度の認知症があるのですが、ご本人はその自覚は無く、
とてもテキパキと作業を終えて時間を持て余してしまうことがあります。
そうして、親切心で隣席の方の作業に手を出して無理矢理やってしまう事が続き、
少し困ったなと思っていました。
老人ホームに入所して新たな住環境に戸惑い、
他の入所者との距離間隔がわからずに戸惑う方が多いようで、関元さんもそのようでした。

じっくりとご自分の活動に取り組み、早く終わったときは気の合いそうな方と会話を楽しめるようにと、
こまめに横でサポートする活動が続きました。
その間の会話のなかで、関元さんが生きてきた三味線の世界の話を沢山聞かせていただき、
とても心に染みました。

次第に園芸の時間を楽しみにされるようになり、
他の方の作品にも「いいじゃないの」と楽しく声をかけ、無理矢理手伝う事は殆ど無くなりました。

私の目から見ると、数十年間にわたる三味線のプロ活動で持たれた強いプライドを良い思い出として残しつつ、
園芸を通してゆっくりした時間を過ごせるようになった事で、
当初お会いした時よりも、ハリのある明るい表情が増えたように思います。


(報告者:繁昌リーダー)

実例B


●園芸活動をきっかけに友達ができるようになる


森内さん(練馬区の有料老人ホーム)は、9月にご家族と一緒に参加されましたが、
その時はどんなにご家族が勧められても作業をなさろうとしませんでした。
その後何回か見学されましたが、テーブルにつくようにお誘いしても離れた場所から見ているだけで
活動に参加されることはありませんでした。

1ヶ月以上たってから、テーブルにはついてくださるようになりましたが、
手も出さずに途中で退席されてしまいます。

12月頃からはようやく場の雰囲気に慣れてこられたのか、
とても穏やかになられ、作業にも落ち着いて取り組まれるようになりました。

 



1月の植木鉢に絵を描いて飾る作業の時は、とても素敵に出来上がり、
森内さんの作品を見た他の班の方が「あら、素敵」と褒めてくれました。
本人もとても満足されたご様子でした。

その後の活動には、ニコニコと手を振りながら来て下さり、お隣の方とも会話が弾み、
お互いにどうするのか相談しながら作業を進められていました。

寄せ植ええをするときには、「根づくかしら」と何度も心配されていました。
「時々様子を見てあげてくださいね」とお願いすると、
お隣にいらした前島さんと「それは大変」とまた会話が弾んでいました。

園芸活動をきっかけにお友達ができ、楽しい時間を過ごしていただけたように思います。


(報告者:武藤リーダー)

日本園芸療法普及協会

〒185-0035
東京都国分寺市西町2-7-73

お問い合わせ:
y.ko@jcom.home.ne.jp