〇植物を眺め、触れることで、精神・情緒が安定する。
また、適度な運動は、精神を高揚させ、あるいは鎮静させる
〇生き物の成長に関わることで、生きがい、将来の楽しみを得ることができる。
〇達成感・充足感を得ることができ、それによって自己評価・自信・プライドを持てる。
〇栽培管理を通じて、集中力・注意力を維持、回復、増進できる。
〇生活にリズムを持つことが生活の活性化につながる。
〇植物を介して体験や思い出、感情を語ることでストレスが軽減される。
〇園芸活動に関心を移すことで、痛みや疲労が軽減される
〇植物に関わったり、仲間との共同作業で孤独感・喪失感が軽減される。
自宅の庭の鉢植え管理、貸農園での野菜栽培、町内会などでの花いっぱい運動などにも、
園芸療法の見地から様々な効果を見出すことができますが、
ここでは高齢者施設(老人ホームなど)で園芸を行うことから得られる効果を紹介します。
以下は、高齢者施設で園芸療法を指導しているリーダーからの報告です。
太田さん(長野県デイサービスを利用)は78歳、
とてもしっかりした女性です。
園芸への関心が高く、家族の中にもお嫁さん、娘さんと花好きが揃っていて、
園芸療法で持ち帰るものを楽しみに待っているようです。
容器をシールで飾って、 針金をハート型にして、 ツタを植えて蔓を針金に巻きつけます。 ハート型にツタが育ちます。 |
毎回、挨拶の後、以前に植えたものの様子を一つ一つ聞かせて下さり
「あのツタは枝がとても伸びたんだけど、どうしたら良いの?」などの質問もされます。
リース形などの仕立て方を説明してあげると、
「わ〜、また楽しみが増えたわ」と喜んでくれました。
隣の席の方と会話しながら花を活ける。 |
(報告者:松澤リーダー)
私が昨年4月に初めて世田谷区の有料老人ホームで
ボランティアとして園芸に参加したとき、大原さんに付きました。
大原さんは車椅子でいらして、そのまま席に付いて参加します。
そのときのプログラムは押し花のコースター作りでした。
折り紙と押し花をボンドで コースターに固定した上に ラミネートフイルムを貼る。 |
大原さんはゆっくり手を動かしては悩み、なかなか作業が進みませんでした。
表情も浮かない様子で「わかんない」と手を止めてしまいました。
私が例を示すつもりで「こうしてはどうですか?」と花を置いてみると、
急ににっこり笑って「そうね。いいわね」と言い、
結局そのままカバーをして仕上げることになってしまいました。
それでも、「いいのができたわ、ありがとう」と喜んで帰りました。
その後も大原さんはきちんと毎回参加してくれました。
ただ、手先が思うように動かず、目がよく見えない、立ち上がれないなどの理由で
「ちょっとやってよ」と頼まれることも頻繁でした。
園芸の時間が終わってからは、車椅子なのでスタッフが迎えに来ないと取り残されたと思い、
毎回のように「なんでほっとくのよ」と不満を言っていました。
そんなふうにイライラしていることが多い方でした。
8月になって、同じテーブルに田部さんが加わりました。
初めての参加で不安がる田部さんに、大原さんは優しく接してくれて、
田部さんに声掛けしたり励ますことで、ご自分も積極的に作業に取り組みました。
大原さんが田部さんを気に入ったらしく、
その後の活動では笑顔で過ごすことが多くなりました。
私達が手を出すと、「いいわ、自分でやるわ」と自分でやろうとするようになりました。
葉牡丹とビオラを寄せ植えしました。 |
(報告者:上林リーダー)
板橋さん(長野県特別養護老人ホーム)は、
園芸の場にお連れするのも、その場に居てもらうのもたいへんです。
フラワーアレンジメントのときは、「花は嫌い」と投げつけたり、
ボランティアや他のクライアントにも暴言を吐いたり、引っかくは噛み付くわの
問題行動が重なりました。
「殺してちょうだい!」と口癖のように言い続けることも少なくなく、
どうしてここまで花が嫌いな方を園芸療法にお誘いしなければいけないのか、
私には疑問でした。
それと同時に無力感を感じました。
回を重ねても、「やってちょうだい」「あんた嫌い」「殺して」と言われ、
つねられたり、叩かれたり、噛みつかれそうになったり、
同じグループの方とも喧嘩になったり本当に困りました。
ところが、半年以上続けて園芸療法に参加しているうちに、ふと気がつくと、
口癖のように言っていた「殺してちょうだい」などの暴言を言わなくなっており、
時には「また来てくれる?」と声を掛けてくださるようになりました。
また、リーダーさんの説明を聞き、
時には「説明が長い、早くやりたい」と意欲的になり、
作業も自分の意思でやれるようになりました。
自力でできるようになって、自信を取り戻したように思います。
そのうち、お部屋に持ち帰るときに嬉しそうに花を自分の膝の上に置き、
職員さんたちに作品の自慢をし、
褒めてもらうと本当に嬉しそうなお顔をされる姿が見られました。
最近、サツマイモを植える作業をしましたが、表情も穏やかでやさしい目をされ、
リーダーの話にも興味を持って聞かれていました。
問いかけにもいち早く「1里は4キロだよ」と答えられ、
周りをビックリさせました。
(報告者:保田リーダー)
樫村さん(杉並区の有料老人ホーム)は、麦の播種に参加しました。
12月2日に播種し、2週間後にプランターに植えた麦踏みを経験しました。
とはいっても、プランターの麦ですから、指先での麦踏です。
プランターに土を八分目まで入れて 播種しました。 |
年が明けて1月13日、
「私の麦が立派になったのよ、この調子だと麦ご飯がたくさん食べられるわ」
と話しかけてきてくださいました。
麦のプランターは屋上に置いてあるので、
寒い時期にもかかわらず見に行ってくださっての言葉だと思います。
何かのついでに屋上に出て、たまたま目にされたのかもしらませんが、
麦を見て「私の」と自分が手を掛けたものを強く意識し、無事育っていることに喜びを感じ、
それを話題にしたコミュニケーションは、麦の一連の活動がもたらしたものだと思います。
樫村さんのほうから話しかけられたのは初めてでしたが、
植物を介して対人関係にも積極性を示して下さったようでとても嬉しく思いました。
植えたとき→育ちつつある現在→実るまでと、生物への愛着や時間の経過を意識するだけでなく
楽しみに待つ中で季節を感じ取ったり、外(自然)のことに興味や関心をもつきっかけになり、
また、その時の様子や気持ちを誰かに話したくなるような展開までを丁寧に見守りたくなりました。
このような経験がきっかけになり「また屋上に出てみたい」「水をやりたい」などの気持ちがでて、
植物を見ることが日常生活の習慣になれば良いと思いました。
そのような言葉が出たら、タイミングを逃さず次の活動の意欲に結びつけられるようにするため、
私たちと施設スタッフとの連携も大切だと感じました。
(報告者:関根リーダー)