加齢による知力の低下は避けられない事ですが、園芸の場でいろいろな知能を働かせることで
その低下を防ぎ、知力の維持と向上を図ることができます。
園芸のリーダーは、そのための様々な工夫とサポートをします。
〇馴染みの植物を育て利用したり、関連の事柄を知ったり思い出したりすることが、
記憶力の減退を防ぐ。
〇五感を刺激することで、脳の働きを促し、感覚や知能の低下を防ぐ
〇収穫した植物を押し花やフラワーアレンジメントなどに利用することで、
創造力や想像力の維持、向上につながる。
〇栽培や利用の過程で、選択肢が提供されることで、判断力を維持し、高めることができる。
〇栽培に必要な知識や技術に関心を持つことで、物事に対する興味・関心の維持、増進ができる。
〇天候、季節、月日に対する関心を維持することで、時間感覚・季節感を維持することができる。
自宅の庭の鉢植え管理、貸農園での野菜栽培、町内会などでの花いっぱい運動などにも、
園芸療法の見地から様々な効果を見出すことができます。
また、知的障がい者、発達障がい者の自立支援などにも園芸が効果を見せます。
ここでは高齢者施設(老人ホームなど)で園芸を行うことから得られる効果を紹介します。
以下は、高齢者施設で園芸療法を指導しているリーダーからの報告です。
宮下さん(長野県デイサービス)と初めて会った頃は、まだ施設の活動になれていない様子で、
発する言葉も少ない状態でした。
左手麻痺があり車椅子で作業をします。
左手が不自由でほとんど車椅子の膝の上に掛けているジャケットの下に入れたままです。
フラワーアレンジメントの時は、一人で花を切るのがうまくいきませんが、
茎を支える手伝いを少しすることでハサミを使い切ることができます。
時間は掛かりましたが、挿す台に揃えて集中して取り組む様子が見られます。
チューリップの球根を植えるときは、テープの先を少しつまんで取りやすくすると、
自分から積極的に取ろうとして手を動かしていました。
その日は秋の花のフラワーアレンジメントで、施設に飾る花を作成しました。
はじめにリーダーから説明があり、「この花は何ですか?」という問いがありましたが、
それに対して突然宮下さんが大きな声で「リンドウ」と発声して得意そうでした。
それから、1度聞いた花の名前を繰り返し復唱して覚えようと努力している様子が見られるようになりました。
作業後のお茶の時間のときでも繰り返し花の名前を暗記しています。
作業したときに花の名前を聞かれて皆の前で答えることで自信を深めているように思われました。
毎月第一土曜日に園芸療法を実施しているので、慣れるにしたがってだんだん表情も豊かになっています。
相変わらす時間は掛かりますが工夫して花を挿したりするようになりました。
この夏のある日の活動が終わったとき、
リーダーの「時間の余裕のある方は庭でレイズドベッドの花の植え替えをしましょう」という呼びかけに、
積極的に参加して苗を植えていました。
(報告者:丸山リーダー)
大森さん(長野県デイサービス)は、肢体不自由で車椅子に座ったままですが、
作業中でも体調によっては寝てしまうことがあります。
香りのある植物や、触感の違う木の実や 枝葉を使ったリースづくり。 |
12月の木の実とヒバ、ローズマリーの枝のリース作りのことです。
リース作りの材料の香りのせいか、あるいは植物の感触に刺激されたのでしょうか、
突然両手をバタバタと動かしたりして気持ち良さそうに声を出して反応しはじめました。
香りを嗅いでみたり、葉や枝に触れては反応していました。
その時は周囲が驚くほどご機嫌で体調も良さそうでした。
五感の刺激に反応している姿をみると、香り、葉の感触にふれることで気持ちよく過ごせたり、
身体機能維持につながるのではないかという思いがしました。
いつもは声掛けに対して反応の薄い方ですが、明日への希望につながりを感じました。
あきらめずに継続して声をかけたり感覚を刺激することで何か良い方向に向えるかもしれません。
貴重なひとときをともに体験させていただき、豊かな時間の流れを感じました。
私達が手を出すと、「いいわ、自分でやるわ」と自分でやろうとするようになりました。
(報告者:高畑リーダー)
デイサービス(松本市)の職員の方からは、
薄田さんについて「穏やかな方ですが、ご自分から進んで作業をされたりしない」と聞いていました。
4月の寄せ植えのときは、花の名前もあまり覚えることができず、
土入れ作業も手が弱いためか片手ずつ使い(両手をいっしょには使わず)ゆっくりと作業されていました。
後半ではとても疲れた表情も見られました。
ところが6月のフラワーアレンジメントでは両手を上手に使い、
花材をご自分の考えている長さに切るため、何度も持ち直して切り、
挿す位置も確認しながら作業されていました。
切った枝も下に落とさないように工夫されていました。
疲れた様子もなく、終始笑顔を見せられていました。
「物を作ることが大切さ」と話をしながら、ご自分の作品を満足そうに見ていました。
帰り際に振り返りながら見せてくれた嬉しそうな表情が忘れられません。
また、次回もこのような姿を見ることが出来ればと思いました。
(報告者:牧野リーダー)
梅林さん(目黒区有料老人ホーム)は、ご夫婦で入所していて奥さんは毎回園芸に参加さてています。
その日は、珍しくご主人も参加されました。
奥様に半ば強制的に連れて来られたとおっしゃり、渋々参加されました。
容器をフェルトで飾る。 |
この日の作業は、プリムラの花鉢を入れる容器づくりでした。
作業が始まると、世話好きな奥様や周りの女性陣があれこれと面倒を見たがるので自分のペースでできず、
前半は溜め息まじりでした。
その様子を見て、不憫な感じがしたので、女性陣をなだめ、
ご主人を褒めながらやっていただくようにしたところ、
ペースをつかまれ最後まで完成することができました。
すると梅林さんは「いつもはこの時間は寝ていることが多いけれど、
今日は1時間ずっと作業することができて、たいしたものだ。
こんなに長い時間一つのことに集中できたのは久しぶりだ」とご自分に驚かれながらおっしゃりました。
時間もあっという間に感じられたとのことでした。
さらにご自分の作品を眺めながら、「この色は丁度良い配色になったね」とたいへんご満足気でした。
ここでの園芸は隔週ですが、定期的にこんな風に達成感や充実感を味わっていただけたら
もっと良い効果が得られるだろうと思いました。
(報告者:小澤リーダー )